• 2024年6月1日

入院カンファよもやま話③

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 医療そのものに職人的な要素があるため、研修期間は指導医の下で一定の教育を受ける必要があることは想像に難くないと思います。大学病院では、さらに研究も担っている医師もおり、具体的には教授を筆頭に准教授、講師、助教などが挙げられます。

 大学病院の機能は、臨床、教育、研究ですが、一人の医師がすべてを担うことは困難ですので、一般的には医局内で出世するほど、研究に重点が移っていくことになります。

 大学病院での入院治療では、担当医が複数つくことになり、私が大学病院に入った当初は、後期研修医(医師3-5年目程度、ネーベンと称される。)と上級医(医師6-10年目程度、オーベンと称される。)の2人体制でした。しかし、この体制ですと、後期研修医が頼りない場合、上級医が前面に出ざるを得ません。上級医の中でも、かなりの年配になった医師にとっては、面倒で仕方がない状況です。

 そこで徐々に増えていったのが、「スーパーバイザー」という立場です。これは、治療担当者の一員というよりも、上級医及び後期研修医の監督指導といった役回りで、基本的には自身で治療を担当することはありません。

 この「スーパーバイザー」、当初は治療が困難な患者様に対して、より経験のある医師からの支援を得るという名目で導入されましたが、実際には、この役につける医師の「担当医ロンダリング」の装置として利用されていました。自身の(対応が面倒な)外来患者様を入院させ、その際に病歴を後輩に整理させ、さらには退院後の外来主治医も後輩に変更するわけです。

 普段は些細な点を執拗に追及する「スーパーバイザー」も、それまで自身が外来を担当していた患者様に関する入院カンファになると、「実はこうした事情で治療が進まなかった。」、「実はこうした事情で病歴を確認できなかった。」と弁解に終始することがほとんどです。このさまは、人によっては滑稽に映ったかもしれません。

 しかし、私はこのような、清濁併せ吞みながら、円滑に治療や組織をまわしていく経験も、医師としてのある時期には必要であると考えます。「スーパーバイザー」の外来診療録を見直すと、その医師の関心領域、知識量、診療技術、記載能力などが如実にわかりますし、自分にはなかった新たな視点や発見も得られるからです。また、「スーパーバイザー」の面目を保ちながら病歴をまとめることも、組織人としての研鑽につながります。私にとっては、こうした先輩医師の心理や行動に直面することが、皮肉ではなく、非常に良い勉強になりました。

 ただ、ドイツ語由来の「オーベン」やら「ネーベン」、さらには英語由来の「スーパーバイザー」などは、何とか日本語に統一してほしいと思っていましたが……。ちなみに、初期研修医は、「レジデント」ではなく、「研修医」でした。

 それでは、また!

渋谷神泉こころのクリニック
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