• 2024年8月24日

子供の教育と応用行動分析に関する雑感

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 朝日新聞では、土曜日の「Be on Saturday」なる別紙で、時代の最先端を行く人物紹介記事を「フロントランナー」というタイトルで連載しています。

 2024年(令和6年)8月24日(土)で紹介されたのは、今年に長野県佐久市に西軽井沢学園さやか星高校を開校された奥田健次氏、応用行動分析学を武器に子どもの個性や長所を伸ばしていく教育を身上とされています。

 行動分析学とは、行動をその前後での出来事との関係性から分析することで、行動の変容や予測などの法則性を明らかにしようとする学問体系です。基礎研究領域を実験行動分析学、臨床や教育などでの応用研究領域を応用行動分析学として区別しており、応用行動分析学とは行動療法とほぼ同じ意味で使われます。

 この応用行動分析学は、下図のように要約されます。

 より詳しく知りたい方は、「広汎性発達障害児への応用行動分析 フリ-オペラント法」(佐久間徹著、二瓶社、2013年)もオススメです。行動を増やす出来事を強化子と呼びますが、同著では、この強化子間の機能の強弱についても触れられています。曰く、強化子は、食べ物や金銭などの具体的なもの(具体的強化子)、周囲からの関心や賞賛などの社会的なもの(社会的強化子)、行動そのものに伴う満足感などの内発的なもの(自己強化子)に大別されますが、ある行動への強化機能は、具体的強化子<社会的強化子<自己強化子の順に大きくなるということです。

 どういった欲求を満たせるものが強化子として機能するのかという視点からは、アメリカ合衆国の心理学者であったアブラハム・マズローによる欲求階層説も参考になりますね。

 ここで、応用行動分析学を実践する際の注意点として、子どもにとっては特に、ある行動の前後で何も変化がないことよりも、何らかの対人関係が生じることの方が望ましい場合が多いということです。ある行動の後に、叱責や暴力などの好ましくない「罰」を与えらえたとしても、無視されるよりもマシだということが、臨床場面では多々みられます。この場合、「罰」がその行動の正の強化子(好子)として作用しているということです。マザー・テレサは、「愛の反対は憎悪ではなく、無関心である。」と語ったそうですが、やはり、人間は他者との交流がないことを苦痛に感じます。

 問題行動を減らしたいときは、罰を与えたり、無視を決め込むよりも、人間関係をつうじて他の好ましい行動を増やしていくという観点が重要です。

 西軽井沢学園さやか星高校での応用行動分析学を前面に打ち出した教育方法は、私もいつか見学の機会があればと感じました。

 それでは、また!

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