- 2024年6月20日
依存症について④
渋谷神泉こころのクリニックです。
当院には、アルコールの問題でお悩みの方も多く受診されています。
そこで、今回はアルコール依存症の診断について、世界保健機関(WHO)による国際疾病分類(ICD)の基準を参考に解説したいと思います。
このICDは、2022年1月に第11回改訂版(ICD-11)が発行されましたが、国内ではまだ完全に移行しておらず、ICD-10が用いられています。
ICD-10によるアルコール依存症の診断基準は、アルコールによる心身及び社会的な問題のうち、一定以上の項目が該当するという複合的なものになっています。ICD-10による診断基準を、当院で意訳・簡略化してまとめたものが、下記になります。
これら6項目は等価ですが、臨床的に特に重視しているのは、やはり自制の喪失です。これは「飲まない日もあるが、一度飲み出すと記憶がなくなったり、吐いたりするまで止まらない。ほどほどでやめられない。」といったもので、「アルコールに関するブレーキがなくなった状態」ということになります。至上化というのは、当院の意訳ですが、要するに生活の中で、他の事柄よりもアルコール摂取の優先度が上がっていくということです。渇酒ともいわれる強烈な飲酒欲求も、治療の上では重要な視点で、その背景には非常に重い何らかの生きづらさがあることが多いです。とにかく、依存症の診断には、さまざまな視点からの複合的・総合的な考察が必要です。
ICD-11では、この診断基準が簡素化され、おおむね以下のようにまとめられました。
一方、米国精神医学会(APA)による精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)では、依存症という概念は排され、使用障害という概念が導入されました。詳細は割愛しますが、アルコール使用障害は、11項目中2項目の該当で診断されます。これは、医療機関による早期発見や早期介入を念頭に置いたものでしょう。
このように、アルコール依存症、または使用障害についての診断は、どの基準を用いるかによって多少の揺らぎが出てきます。しかし、重要なのはある基準を一律に適用することではなく、あくまでアルコールに関する問題や、その背景にあるさまざまな葛藤を軽減できるように支援することです。
それですので、「アルコールに関する相談をしたいけれども、まだ依存症という感じでもないし……。」、「この程度で相談しても良いのだろうか。」などとお悩みの方でも、まずは一度お気軽に御相談いただければと思います。
それでは、また!