- 2024年8月30日
救急外来での自傷行為への対応について
渋谷神泉こころのクリニックです。
総合病院に勤務していた頃、後輩研修医などから、リストカットやアームカットなどの自傷行為について、救急外来ではどのように対応すればいいのかを訊かれることが多々ありました。
まず、自傷行為には、「自傷行為の理解と援助『故意に自分の健康を害する』若者たち」(松本俊彦著、日本評論社、2009年)などでも触れられているように、脳内の神経伝達物質を分泌させるなど、心理的苦痛を緩和させる自己治療的な機能があることを認識する必要があります。また、自傷行為を要するようになった過程には、虐待、災害、事故、暴行、傷害などのさまざまな心的外傷体験があります。こうした背景にも理解を示しておくと良いのではないでしょうか。
心的外傷体験からの回復過程については、メアリー・ハーベイとジュディス・ハーマンが、次の三段階を辿ると説明しています。
第一段階;安全と自己管理
第二段階;外傷体験の統合
第三段階;人間関係の再構築
それぞれの詳細は、「心的外傷と回復 増補新版」(ジュディス・L・ハーマン著、中井久夫訳、みすず書房、2023年)などで述べられていますが、救急外来では第一段階を意識した対応で必要十分かと思います。つまり、本人の内面や記憶にいきなり立ち入ることはせず、当面の現実的な課題の処理に力を貸す――この場合は、淡々と創傷処置を行うということになります。中には、親切心から叱責したり説教したりする対応医もいますが、これはかえって医療機関への忌避感を強めてしまう可能性があります。
自傷行為をする方々は、支援を求めずに一人で抱え込みがちな傾向がありますので、救急外来では創傷処置とともに、安心や安全を実感してもらえる場を提供することも治療の一部になり得ると思います。
それでは、また!