- 2024年9月12日
運転免許の更新に関する雑感
渋谷神泉こころのクリニックです。
先日、運転免許の更新のために新宿運転免許更新センターに行ってきました。前回は府中免許センターで更新手続きを行いましたが、その際は、朝から受付窓口が混雑していた記憶があります。しかし、2024年2月1日から、東京都などの一部地域で運転免許の更新手続きが完全予約制となったことから、今回は特別な混雑なく円滑に手続きが進みました。
あまりに効率的であったため、ベルトコンベヤーに乗せられているような気もし、「暴力のエスノグラフィー――産業化された屠殺と視界の政治」(ティモシー・パチラット著、明石書店、2022年)という書籍を連想してしまいました。同書では、牛の屠殺がベルトコンベヤー式の分業体制でいかに効率的に行われているのかということが解説されています。原題は「Every Twelve Seconds」というものであり、一頭の牛が12秒ごとという驚異的な速度で屠殺・解体されている事実を直接的に表現しています。
話が逸れましたが、運転免許の更新の際に「一定の病気等」の有無に関するスクリーニングとして「質問票」への回答を求められました。
警視庁によりますと、運転免許の取得や更新を制限され得る「一定の病気等」には、以下の疾患が想定されています。
・認知症
・統合失調症
・てんかん
・再発性の失神
・そううつ病、そう病、うつ病
・無自覚性の低血糖症
・重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
・アルコール依存症、麻薬、大麻、あへん、覚せい剤等の中毒者(依存症)
・その他安全な運転に支障のある方(半盲等の視野障害、高次脳機能障害により注意障害等がある、病気により体が思うように動かせないことがある等)
このうち、重度の眠気の症状を呈する睡眠障害として、質問内容からは、主には睡眠時無呼吸症候群を想定しているものと思われます(その他、ナルコレプシーも含まれるでしょう。)。睡眠時無呼吸症候群は、1956年にBurwellらが、日中の強い眠気、心不全、呼吸性アシドーシス(二酸化炭素が溜まって血液が酸性に傾いた状態)をもった肥満の患者についての報告に端を発する疾患概念です。Burwell はこの患者がチャールズ・ディケンズの小説「ピックウィック・クラブ」に登場する「少年ジョー」に似ていることを思い出し、この疾患を「ピックウィック症候群」と呼びました。ジョーはいつも日中の眠気が強く、赤ら顔で、肥満体型をした少年でした。おそらく、肥満に伴う頸部周囲の脂肪組織による圧迫から気道が閉塞され、睡眠時無呼吸、それによる多血症、アドレナリンの過剰分泌による心臓への負荷の増大などを呈していたのでしょう。「ピックウィック・クラブ」そのものは上中下巻の3冊セットで長かったため、私自身は未読のままですが……。
それにしても、免許更新時の質問票にも取り込まれるなど、睡眠時無呼吸症候群はここ十数年でかなり広く知られるようになったと思います。その背景には、CPAP という持続性陽圧換気装置の改良や普及もあるのでしょう。
時代の流れを感じますね。
それでは、また!