• 2024年9月27日

拘禁反応に関する雑感

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 1966(昭和41)年に静岡県のみそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌氏(88歳)の裁判をやり直す再審で、静岡地裁(国井恒志裁判長)は2024年9月26日、無罪(求刑死刑)を言い渡しました。判決では、「自白」した供述調書や犯行着衣とされた「5点の衣類」などに関して、三つの証拠捏造があると認定されました。

 ちなみに、この事件は「BOX~袴田事件 命とは~」として2010年に映画化されています。

 さて、袴田氏は、50年近くに及ぶ拘置所生活で生じた拘禁反応が、釈放されてからも遷延していると繰り返し報じられています。

 このことは、精神科医療に携わる者にとっても、全く他人事ではありません。精神科病院でも、いわゆる「社会的入院」として、本人の意に反して長期間の入院生活を強要されている方が多く、その中には袴田氏のような拘禁反応を呈している方も珍しくありません。

 ナチ政権下でユダヤ人を強制収容所に送る要職に就いていたアドルフ・アイヒマンは、ドイツ敗戦後の裁判で「ユダヤ人への迫害は大変遺憾に思うが、自分はただの役人であり、所属組織からの命令に従っただけで、自発的に迫害に加担したわけではない。」といった旨を主張しました。

 このことについて、ドイツ出身の政治哲学者であるハンナ・アーレントは、「特別の動機、信念、邪心などのない凡庸な人間が、行為の結果を倫理的に検討することなく、思考を停止させたまま、国家からの命令を忠実に実行することこそが、世界最大の悪である」といった旨を主張しました。

 袴田氏に関する報道をみるたびに、精神科での入院治療の在り方についても、考えを巡らせてしまいますね。

 それでは、また!

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