• 2025年3月17日

うつ病について

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 精神科の診療において、うつ病はかなり診断と治療が難しい疾患です。というのも、他の精神疾患でも最初はうつ病に類似した抑うつ状態から始まることがあるからです。そのため、実際の診療では、経過や薬物治療への反応をみてみなければ、診断を確定できない場合が多々あります。また、診断が正しかったとしても、治療選択肢になる薬物のうち、どれが奏効するのかは、使用してみなければわからないことも多々あります。

 経過や薬物治療の反応によって(うつ病から)診断が変更される代表的な例としては、双極性障害(双極症、躁うつ病とも)が挙げられます。双極性障害とは、躁状態と抑うつ状態とを周期的に反復する精神疾患で、うつ病とは治療薬が異なります。しかし、双極性障害の約7割程度は、抑うつ状態から始まります。そのため、初回のエピソードでうつ病と区別できないことは珍しくありません。抗うつ薬の内服後に、あまりにも急速な改善や、躁状態または混合状態(躁とうつが混在した混乱したような状態)を呈した場合などには、診断が双極性障害に変更され、抗うつ薬を中止されることがあります。

 また、うつ病の診断自体は妥当であっても、ある抗うつ薬は無効ながら、別の抗うつ薬が有効であることもあります。一剤目の抗うつ薬には無反応ながら、二剤目で改善することも珍しくありません。

 改善に薬物治療を要するうつ病であっても、それが軽症のうちは、米国精神医学会によるDSM-5や世界保健機関によるICD-10といった診断基準を満たさず、薬物治療の開始が遅れてしまうこともあり得ます。どのような疾患でもそうですが、軽症のうちは(日常生活を何とか送れているだけに)一時的な疲労や体調の影響や、ストレス反応の一種にしかみえない場合があるものです。

 高名な精神科医である笠原嘉氏は、「うつ病による精神的なエネルギー水準の低下に起因する、心理的な葛藤の二次的露呈」という概念を提唱しています。精神的なエネルギー量をダムの水位に見立て、うつ病の発症によってそれが減ってくると、普段は問題なくこなせていたことが徐々に難しくなっていくということを上手く説明されていると思います。

 もちろん、あまりにも日々の心理社会的な負荷が重ければ、健全な方にもさまざまな症状が生じ得ます。しかし、症状の主因が負荷の過剰という外的なものではなく、精神的なエネルギーの減少(;思考や行動に関する高次の脳機能の低下)といった内的なものである場合、軽症であっても薬物治療が必要になることは少なくありません。こうした可能性もありますので、落ち込んでいる人に対して一概に「単なる能力や気合の問題だ。」などと決めつけることは適切ではないと思います。

 それですので、少しでもうつ病が疑われるようでしたら、まずは医療機関に御相談いただくことをお勧めいたします。

 それでは、また!

渋谷神泉こころのクリニック
精神科・心療内科
03-6427-0555 ホームページ