• 2024年5月31日

入院カンファよもやま話②

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 入院カンファで、誤った言葉が定着したことを思い出しました。

 通常、病歴要約には「生活歴」という項目があり、おおむね「東京都に同胞3名中第2子長男として出生し……」などのように始まります。家族背景や学歴、職歴などを把握するための項目ですが、おそらく、精神鑑定書の構成や文体などの影響もあり、やや定型的で硬質な部分です。

 その際、同胞(兄弟姉妹)がいる場合は導入がスムーズなのですが、当時の私は、一人っ子の場合の表現に悩みました。「一人っ子」という語感が、病歴要約に馴染みにくい、俗語や一般用語のように思えたからです。そこで、「東京都に長男として出生した。同胞はない。」、「東京都に同胞なく出生し……」などの表現も考えましたが、これらもそうでない場合と構成が変わるため、規格性や互換性のなさが気になりました。

 そこで、いろいろと辞書を引くと、「ひとりご」という言葉があることを知りました。これは、「一人子」とも「独り子」とも書きます。当時、どうしてそうなったのか思い出せないのですが、私はそれを「東京都に独子として出生し……」と使うようになりました(ひらがなの混入が許せなかったのでしょうか。)。精神科医1年目の頃でした。

 しかし、大学外の病院に派遣された精神科医3年目の頃、「独り子」ではなく、「独子」とした場合、これが「孤児」という意味になることを知りました。たしか、精神保健指定医や日本精神神経学会の専門医などのレポート作成時に、語彙を確認しなおして分かったのだと思います。それ以降は、「独り子」と表記するようになりましたが、精神科医5年目に大学病院に戻ると、なんと入院カンファで「独子」という言葉が当然のように使われており、誰もそれに疑問をもっていないではありませんか。

 しかも、音読の際には「ひとりご」ではなく、「どくし」と発音されており、誤った言葉が定着してしまったことは明らかでした。

 何名かの後輩には、誤りを指摘しましたが、おそらく、今でもその大学病院では「独子」が「独り子」の意味で用いられているように思います。

 やはり、普段から辞書を引く習慣がないといけないのでしょうが、最近、電子辞書が壊れてしまい、当面は私自身の日本語も動揺しそうな気がします。

 言葉の使い方で間違ったところがありましたら、診察の際に教えてください(;^_^A

 それでは、また!

渋谷神泉こころのクリニック
精神科・心療内科
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