• 2024年8月17日

新人教育や後輩指導に関する私見

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 先日、精神科の後輩から「オープンダイアローグって何ですか?」と訊かれました。最近はどうなのかわかりませんが、私の研修医時代は医師を職人的社会人としてとらえる上級医が多数派でした。それなので、このような質問をしようものなら「給与をもらって教えてもらえると思うな。」、「まず自分で調べてから出直してこい。」などと一蹴されたものです。しかし、こうした指導は、指導者が有能で優秀であるほど、新人や後輩を委縮させ、ほとんどの場合、何らかの悪影響を及ぼします。

 一応の成功パターンは、その後輩がいろいろと調べた上で周辺知識を整理し、それでもなお理解できない部分だけを的確に抽出し、再度それを訊き直すというものでしょう。しかし、これは叱責や注意を恐れての「過剰な完璧主義」や「些事への拘泥」に陥り、ある知識や技術を習得するのに必要以上の時間を浪費させてしまう可能性があります。また、その後輩が指導者になった場合にも、同じような指導を再現し、それに応えられない者を切り捨てる可能性があります。

 失敗パターンは、言うまでもなく、後輩の精神衛生の悪化です。適応障害や、ひどい場合にはPTSDに陥ることすら散見されます。

 特に、昨今は新人といえども戦力として期待されている部分も大きく、研修期間中であっても、業務を迅速かつ円滑にこなさなければならない局面が多々あります(なお、上図の漫画では最終的に両者の相互理解に収まっています。)。

 私自身は、後輩への指導や新人の教育に関しては、「徹底的に甘やかす」方が有効だと考えています。質問にはすぐに答えれば良いし、その場で処理しなければいけないけれども独力でできないことがあれば、代行してあげれば良いと思います。こうすることで、後輩は指導者に相談しやすくなりますし、業務の全体像を把握しやすくなります。心理的に悩む時間も減りますので、その分を勉強に充てることもできるでしょう。

 たしかに、新人や後輩の中にも、大きく成長する者とそうでもない者がさまざまな程度で混在しているのでしょうが、「徹底的に甘やかす」ことは最低限の手順や知識を覚える速度を上げることから全体の底上げにつながりますし、伸びる者はさらに大きく伸びることになるのではないかと思います。

 ちなみに、私が受けた指導の中で、自分自身に合っていたものは、要点を説明された上で、「この本を読めば、さらに深く理解できるから。」と参考図書を紹介してもらうスタイルでした。

 逆に嫌だったものは、救急対応中に「ふ~ん、〇〇の疾患の可能性は考えてないんだ。まあ、患者さんに興味ないんだろうね。」、「なんでこの検査をオーダーしたの?こういうのが医療費を圧迫するんだよ。」などとネチネチ人格攻撃されるスタイルです。特に救急の現場でこういう指導を受けると、相談の躊躇による対応の遅延や、過小検査による見逃しにつながる可能性が高まり、あまり良いことはない気がします。

 気になる方もいらっしゃるでしょうから、冒頭のオープンダイアローグについても、別の機会でまとめてみようと思います。

 それでは、また!

渋谷神泉こころのクリニック
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