• 2024年8月20日

育児期間中の衝突に関する雑感

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 出産や育児を契機に、夫婦間での衝突が増えたことで、医療機関に相談されるケースが散見されます。こうしたケースの大半では、夫が(一日のうちの限られた時間帯で)仕事を続けて経済的基盤を固め、妻が(基本的には24時間断続的に)家事や育児に専念しつつ、適宜、お互いの領域を支援するという態勢がとられています。このような状況で、夫が家事や育児をほとんど担わず、仕事に没頭するばかりで、時に妻を批判するということが重なり、お互いの衝突やすれ違いが顕在化する、というのがよくあるパターンです。

 このように書くと、妻が全面的な被害者のように見えますが、一方で、話をきいてみると、夫にも夫の言い分があるようです。その多くは、「家計を支えるために仕事に専念している。」、「長期にわたって収入を安定させるためには、長時間労働もやむを得ない。」などといったものです。こうした感覚がありますと、育児が自身の経済的基盤を脅かすものとして、夫は夫で「家族や家庭の存在が、出世や昇給を阻害している。」などと被害意識をもつことも珍しくありません。

 しかし、育児期間中にまで長時間労働をしたところで、本当に出世や昇給につながるのでしょうか。個人的には、わが国の多くの企業では「年功序列」というよりも「年齢序列」といった風潮が強いため、一時的な長時間労働が即座に評価されることは少ないように思います。そこで、こうした長時間労働に陥りがちな方に対しては、労働時間の削減のために、「売上最小化、利益最大化の法則──利益率29%経営の秘密」(木下 勝寿著、ダイヤモンド社、2021年)をお読みいただくことをお勧めします。

 同書で強調されているのは、「購入につながらない広告は削減した方が利益率が高まる」という考え方ですが、これは仕事に関しても応用可能です。つまり、成果や評価にそれほど寄与しない部分は意識的に削減する、ということです。実用上の成果の8割は、投入された労働時間のうちの2割で生み出されるというパレートの法則(「2:8の法則」)と同様です。

 誰しも時間は有限であり、それを十分に活用するためには、日常生活におけるさまざまな課題に対して、各々の優先順位に応じた「選択と集中」をしなければなりません。「HUNTER×HUNTER」という漫画でも、有限である「念能力」資源を効率的に活用するためには、その適用範囲と使用目的を「制約と誓約」という形で限定しなければならないと説明されています。
 また、新たな知識や技能の獲得も、追及するとキリがない割には、生産性に直結しない場合も多々あります。「寄生獣」という漫画では、「ミギー」という個体が「しばらく情報をシャットアウトして、ここにある材料だけでやってみたくなったんだ……。」と知識の無制限な追求を手放す場面がありましたね(そういえば、私も以前、指導教官から「勉強ばかりしても、実験で手を動かさないと、物知りになるだけで一生を終えるぞ。」と叱責されたことがあります。)。

 そういうわけですので、育児期間中の夫の働き方としては、すでに獲得した知識や技術を活用しながら、業務の効率化に努め、定時での退勤とともに御家庭での時間をしっかり確保する方向が良いのではないかと思います。そして、丸一日は難しいにしても、妻に対してある程度まとまった「一人時間」を捻出できるとなお良いと思います。

 あくまでも診療をつうじた雑感に過ぎませんが、何か参考になるところがあれば幸いです。

 それでは、また!

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