• 2024年9月18日

読書離れに関する雑感

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 2024年9月18日(水)の朝日新聞によりますと、全国の16歳以上のおよそ6000人を対象にした文化庁による調査の結果、1か月に本を1冊も読まない人が6割を超えたそうです。その背景には、スマホやSNSの普及があり、これらへのアクセスと利用が、読書時間を奪っているのではないかと考察されています。

 要するに、思い立ったとき即座に手に取れず、すぐに結論や回答が得られるわけではないものには時間を割けないということでしょう。つまり、ある手段の実行頻度は、すぐにアクセスでき、簡単に利用できるほど高まるということです。実は、精神科領域ではこうした発想は珍しくなく、特に自殺予防対策の観点から日常的に活用されています。

 「自殺予防学」(河西千秋著、新潮社、2009年)では、「自殺の手段が手に入れやすいほど(手段へのアクセス性 accessibility )、扱いやすいほど(手段の利便性 availability )、自殺は実行されやすい」と述べられており、具体例として練炭(香港;購入手続きの煩雑化)、アルコール(ソビエト連邦;ウォッカの規制)、農薬(西サモア;使用の規制と管理の厳重化)、銃(カナダ;銃規制の厳重化)などの手段とそれらへの介入が紹介されています。同書では、電車への投身自殺対策として「ホーム柵」の有効性が「そのうち証明されるだろう」と予言されていますが、実際に2016年7月27日の東洋経済オンラインの記事で「ホームドア設置」の絶大な効果が紹介されるに至っています。

 「誰がために医師はいる――クスリとヒトの現代論」(松本俊彦著、みすず書房、2021年)でも、巨大橋梁における自殺防止策として、欄干に有刺鉄線による高さわずか50 cmの障壁を増設することで、年間20人超であった投身自殺者数が 1~2名に著減したエピソードが紹介されています。

 ある行為を抑制したい場合は、とにかくその実行を煩雑にすることが有効で、促進したい場合はその逆になります。

 読書時間を増やしたいとお悩みの方は、まずは、いつでも手に取れるように文庫や新書などの小サイズの書籍を持ち歩くと良いのではないかと思います。単行本は装丁が魅力的なのですが、サイズが大きいために、携帯性という点では移動中の隙間時間に扱いにくく、保管にも場所をとってしまいます。電子書籍は便利ですが、同一端末内ではついつい漫画を読んでしまうなど、すぐに他の作品に移行できることが、やや集中を困難にする向きはあるかもしれません。

 必要とする情報や状況は人それぞれですので、一概に読書の方がスマホでの検索やSNSの閲覧よりも優れているとは言えませんが、それでも読書時間を増やしたいという方は小サイズの紙媒体の書籍が良いかと思う次第です。

 それでは、また!

渋谷神泉こころのクリニック
精神科・心療内科
03-6427-0555 ホームページ