- 2024年9月28日
テストステロン投与の可否について
渋谷神泉こころのクリニックです。
先日、保険診療でのテストステロン製剤の筋肉内注射の可否について、お問い合わせいただきました。
おそらく、筋肥大や筋力増強を目的とした御相談だったように思います。当院では対応できない旨を回答いたしましたので、今回はその理由などについて補足させていただきます。
当院がテストステロン製剤を保険診療で扱わない理由は、以下の二点です。
第一に、当院での診療能力の問題です。たしかにテストステロンは、この目的で使用される薬物の中でも特に効果が大きく、現在でも主役であると言えるでしょう。
ただし、テストステロンをはじめとする男性ホルモン製剤は、蛋白同化作用(筋肥大作用)の他に、男性化作用もあるため、特に前立腺肥大や前立腺がんの併発可能性には注意しなければいけません。当院では、前立腺の状態を適切に評価できないため、テストステロン製剤を扱う予定はありません。テストステロンの投与を行っているクリニックは泌尿器科に多い印象を受けますが、これは前立腺に関する専門知識や評価技術があるためでしょう。
その他にも、心肥大による弁膜症や肝機能障害を併発するリスクなどに対して、内科で定期的な検査を受けることも必要で、これも当院が単独で担えるものではありません。
第二に、効果の程度の問題です。テストステロンを保険診療で扱う場合、何らかの疾患に対して許容された用量や頻度で投与することになります。適応となるのは、男子性腺機能不全や男子不妊症といった体内での男性ホルモン作用の増強を要する疾患群と、再生不良性貧血などの造血機能の増強を要する疾患群ですが、いずれにしても、その用量は 250 mg/1~2週程度に定められています。
すでに入手は困難ですが、「バルクアップ」(北浦伸一著、ナユタ、2001年)によりますと、著明なレベルでの筋肥大を目的に使用する場合、1,000 mg/週程度は必要なようです。つまり、保険診療で使用する用量では、そもそもの御希望にお応えすることは困難かと思います。
ちなみに、自費診療の場合ですと、渋谷近辺にも対応可能なクリニックが複数あり、テストステロン製剤 250 mg を6,000円程度で投与してもらえるようです。
ただし、テストステロン製剤のは、靭帯や腱なども強化するわけではありません。使用に際しては、過度な筋力増強によって関節を痛めないように御注意ください。
また、上図のとおり、テストステロンの一部はエストラジオールなどの女性ホルモンにも変換されます。そのため、高用量でのテストステロンの使用には、女性ホルモンへの変換を防ぐ薬物も別途必要になり、こうした周辺薬剤を含めますと、テストステロン製剤の使用には相応の金額がかかります。自費診療を行っているクリニックに御相談いただく場合には、こうした周辺薬剤も含めた料金になっているのかどうかも御確認いただくことをお勧めいたします。
参考になれば幸いです。
それでは、また!