• 2024年9月11日

精神科研修に臨む後輩へ

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 先日、精神科病院に数箇月配属されることになった後輩研修医から、どのようなことを意識して研修に臨めば良いのか訊かれました。

 現在は、精神疾患が(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病と合わせて)「5大疾病」の一つとされ、初期臨床研修制度上でも精神科が必修科目とされるなど、精神科への理解がより求められる時代になってきています。こうした中、精神科病院での研修に際しては、生物学的な視点からの治療論だけではなく、長期入院に関する心理社会的な視点からの考察にも時間を割くと良いのではないかと思います。

 まず、わが国の精神科病院における長期入院については、「日本の精神科入院の歴史構造: 社会防衛・治療・社会福祉」(後藤基行著、東京大学出版会、2019年)でも詳述されているように、社会的入院としての意味合いが強い場合が散見されます。要するに、地域から隔離することが主目的の入院というものがあり得るということです。この場合、当然、患者様にも相応の心理的な反応を生じますが、これを強引に抑制しようとした場合に、医原性の問題が重畳してしまうことがあります。

 一つは抗精神病薬の長期過剰投与によって生じる「過感受性精神病」で、これは「過感受性精神病 治療抵抗性統合失調症の治療・予防法の追求」(伊豫雅臣ら監修、星和書店、2013年)で詳しく解説されています。遅発性ジスキネジアについても、おそらく発症機序は同様ですので、理解しておく必要があります。

 もう一つは、「施設症」(ホスピタリズム)で、昨今の精神科領域では、長期の収容によって形成される無表情、情動の不安定、自発性の低下などを呈する状態を意味します。なお、「施設症」とは、元来、親元から隔離されて施設で養育された子供たちにみられる特定の傾向を指す言葉でしたが、この意味で用いられる場面は現在少ない印象です。

 「精神科で発覚した主な問題事件」も眺めておくと、精神科病院で起こり得る問題や事件などの傾向が見えてくるかと思います。

 今となっては入手困難のために少し高額ですが、「悪魔の精神病棟」(安井健彦著、三一書房、1986年)及びそれを漫画化した 「サイコホスピダー」(イエス小池著、三一書房、1996年)も歴史を知る意味で良いかもしれません。

 とにかく、精神科での研修では、心理社会的、歴史的な側面にも意識的に焦点を当てることが重要で、これが他の科に進むことになったとしても、各局面で倫理的な考察をする際に役立ちます。

 参考になれば幸いです。

 それでは、また!

渋谷神泉こころのクリニック
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