- 2026年5月1日
- 2026年4月27日
25.東海道品川御殿山の不二
渋谷神泉こころのクリニックです。
院内に月替わりで展示している浮世絵について、院内にもバックナンバーを含めた解説を置いております。とはいえ、あらかじめ解説を読んだうえで、来院時にじっくりと鑑賞したいとの御意見も頂戴しましたので、展示作品については、当ブログにも解説を掲載しております。
令和8年5月は、「東海道品川御殿山の不二」です。

本図は、現在の東京都品川区北品川付近からの眺望を描いたものです。品川宿は東海道最初の宿場町であり、江戸から西へ向かう旅の起点であると同時に、西から来る旅人にとっては江戸の玄関口でもありました。そのため、多くの旅籠や水茶屋が立ち並び、大いに賑わっていました。
この品川宿の背後、江戸湾を見下ろす小高い丘が御殿山です。八代将軍・徳川吉宗の時代に桜が植えられて以降、飛鳥山や隅田堤などとともに、江戸庶民の観桜の名所として親しまれ、浮世絵にもたびたび描かれてきました。歌川広重の『東海道五拾三次』「品川 日之出」に描かれた大名行列も、御殿山からの眺望とされています。

しかし、幕末には御台場建設、さらに明治初頭には鉄道敷設のために山は大きく削られ、往時の姿は大きく失われました。
なお、麓の建物は、北品川宿内にあった時宗の善福寺や天台宗の養願寺、また右側の町屋は東海寺の門前町と考えられています。
本図には、満開の桜のもと、御殿山で花見を楽しむ人々の様子が活写されています。見晴らしのよい丘の上では、茣蓙を広げて酒宴に興じる人々や、遊び疲れて眠った子どもを背負う親の姿など、思い思いに春の一日を過ごす情景がいきいきと伝わってきます。
一方で、本図には意図的な構成上の工夫もみられます。御殿山から江戸湾を望むと視線は東に向かうはずですが、画面には本来西方にある富士が海の向こうに配されています。実景とは異なるこの配置は、桜と富士という二つの象徴を一画面に収めるための、北斎ならではの演出といえるでしょう。

ひょろりと背の高い桜並木、波静かな江戸湾、その向こうにのぞく富士。にぎやかな花見の情景と、雄大で静かな自然とが対比されることで、春の華やぎと安らぎとが同時に感じられる構成となっています。
さらに技法面にも見どころがあります。江戸湾の波は版木の木目をそのまま活かして表現されており、刷物ならではの味わいが感じられます。また、桜の花びらは薄い紅のぼかし摺りに加え、凹凸のみで質感を出す空摺りによって繊細に表現されています。
なお、画面右下に描かれている、版元・永寿堂の家紋(山形に右三巴紋)の風呂敷を背負った坊主頭の男は、『冨嶽三十六景』「五百らかん寺さゞゐどう」に登場する人物と同一とみられており、揃中の遊び心もうかがえます。

お楽しみいただければ幸いです。
それでは、また!
