• 2024年5月23日
  • 2024年7月12日

うつ病について③

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 精神科医にとって、最も鑑別が難しいものが「抑うつ状態」です(業界用語的に「抑うつ状態」といいますが、「うつ状態」と意味は同じです。)。

 抑うつ状態は、躁状態を除く、あらゆる精神疾患やストレス反応で生じ得えるからです。

 中でも注意すべきは、躁うつ病(双極性感情障害)の「うつ病相」による抑うつ状態です。躁うつ病の7割は躁状態ではなく、抑うつ状態で発症するといわれており、初回の受診でうつ病と躁うつ病を見分けることは容易ではありません。

 しかし、うつ病と躁うつ病は似て非なる疾患ですので、治療薬が異なります。特に躁うつ病の方に抗うつ薬を投与すると、時に躁状態を誘発したり、衝動性を高めたりすることがあり、これが自殺につながってしまうこともあり得ます。

 そのため、抑うつ状態が「大うつ病」(Major depressive disorder の和訳;典型的なうつ病という程度に解釈して問題ありません。)によるものなのか、「躁うつ病」によるもの(;「双極性うつ病」)によるものなのかという区別が重要になります。

 これまでに報告された「双極性うつ病」の傾向をまとめると、以下のようになります(Aiken CB、SN Ghaemi、Mitchell PB らによる研究を大まかにまとめてみました。)。要するに、以下の該当項目が多いほど、うつ病よりも躁うつ病の可能性が高まるということです。

 ①第一度親族(父母、子、同胞)に躁うつ病の罹患者がいる
 ②抗うつ薬で(軽)躁状態が誘発されたことがある
 ③発揚気質(通常の状態で、活動的で高揚的な傾向が強い)
 ④抑うつ状態の反復
 ⑤短期間で終わる抑うつ状態
 ⑥過眠や過食
 ⑦抑うつ状態の際に幻聴や妄想などを伴う
 ⑧発症が20歳前後と若年
 ⑨発症が産後(産後うつ病)
 ⑩抗うつ薬の効果が弱い
 ⑪治療抵抗性(3種類以上の抗うつ薬が無効)

 少し硬い話になってしまいましたが、とにかく、「うつ病と躁うつ病が違う病気である」ことを御理解いただければ十分です。

 それでは、また! 

渋谷神泉こころのクリニック
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