- 2024年6月24日
御家族での受診について
渋谷神泉こころのクリニックです。
精神科では、ある患者様の担当医が、その御家族を診察することを拒むことがあります。この「家族診察お断り」という可能性は、おそらく他の科よりも高いのではないかと思います。
私も後期研修医時代、上司から「今度〇〇さんの御家族が受診したいようなんだけど、自分はもう〇〇さんを診ているから、御家族の方は君が担当してね。」などと言われることが多々ありました。反面、御家族も診ている別の上司もおり、同じ医療機関内であっても統一されたルールはなさそうでした。
結論から申し上げますと、私自身は御家族での受診も問題ないと考えております。
「同じ家族の中で受診された場合、個人情報を保護できなくなる。」と主張する上司もいましたが、現実問題として、一緒に受診する方が通院の利便性は高いはずですし、医師不足の地域であれば、そもそもこうした選別自体が不可能です。
とはいえ、家族間での個人情報の保護についても、何らかの原則をもっておかなくては、個々人との信頼関係や診療そのものに混乱をきたす可能性があります。
そこで参考になるのが、元外交官である佐藤優氏の情報管理術です。外交には、利害の対立する各国間の情報収奪戦といった側面がありますが、その「情報戦」の中にも一定のルールがあるそうです。同氏は、情報を扱う者の鉄則として「嘘をつかないこと」を大前提とし、秘密情報の扱い方について「サード・パーティー・ルール(第三者に関する規則)」を紹介しています。これは、診療にも応用できる考え方だと思います。
Amazon.co.jp: 私の「情報分析術」超入門: 仕事に効く世界の捉え方 (一般書) : 優, 佐藤: 本
診療における例として、親子で通院されているものの、子の方が親にあれこれと詮索されたくない場合が挙げられます。親が受診された際に、「うちの子は最近通院していますか?」などと訊いた場合、子が通院していたとしても、「通院されていません。」と言うのではなく、「受診の有無も含めて、個人情報保護の観点からこうした質問にはお答えできません。」と回答することが、「嘘をつかないこと」になるでしょう。
また、この場合に何か親に伝えたいことがあったとしても、子に無断で伝えるのではなく、事前に「このことについて、この範囲で、このように親御さんに伝えておこうと思いますが、良いでしょうか。」と明示的な了承を得ておくことが、「サード・パーティー・ルール(第三者に関する規則)」ということになるでしょう(お断りされた場合は、もちろんお伝えしません。)。
親子、夫婦、兄弟姉妹、パートナー、あるいは、上司部下など、さまざまな関係にある当事者の方々が同一担当医の診療を受ける場合も同様です。今回の記事が、御家族での受診を御検討の方や、こうした場合の方針が明確でない(昔の私のような)後期研修医の方に参考になれば幸いです。
それでは、また!