- 2024年12月26日
過労死について
渋谷神泉こころのクリニックです。
国内最大手の広告代理店の新入社員であった高橋まつりさん(当時24歳)が、長時間労働やパワハラを背景に平成27年12月25日に自死されてから、9年が経ちました。
この事件については、「過労死ゼロの社会を―高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか」(高橋幸美、川人博著、連合出版、2017年)で詳述されています。最近、同著の新装版である「過労死・ハラスメントのない社会を 電通高橋事件と現在」(高橋幸美、川人博著、日本評論社、2022年)を拝読しましたが、現在もわが国全体の労働環境は厳しい状態にあるようです。
高橋まつりさんが亡くなる1年前、平成26年11月1日に「過労死等防止対策推進法」が施行されています。ここでは、長時間労働やハラスメントによって生じる脳血管障害や心臓疾患による死亡、または精神障害による自殺が「過労死等」に該当するとされています。
こうした過労死につながる障害や疾患の中でも、精神障害はほぼ右肩上がりで増加しています。下図は令和3年度までのグラフですが、令和5年度も労災請求件数は3575件、労災支給決定(支給)件数は883件(うち自殺・自殺未遂が79件)と、依然として増加傾向でした。
時に、精神論や根性論に傾倒される方から、「ストレスで精神障害を生じるのは、本人の気合が不足しているからだ。」といった意見を頂戴することもあります。しかし、長時間労働によって必然的に生じる睡眠不足の他、重責やハラスメントなどによって生じる過度の心理的緊張は、アドレナリンやコルチゾールといった各種ホルモンの分泌を介して、脳にも影響を及ぼします。特に複雑な物事を考える前頭葉や、一時的な記憶を担う海馬といった部分は、こうしたホルモンの影響で委縮することが知られています。つまり、ストレスの影響は、一過性の心理的な反応にとどまらず、脳の器質的な損傷につながることもあるということです。
このような場合、いたずらに精神論で乗り切ろうとすることは、病状のさらなる増悪を招きます。
それですので、仕事のストレスでお悩みの場合は、過労死に陥る前にお早めに御相談いただければと思います。
それでは、また!