• 2025年5月1日

13.東都駿台

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 院内に月替わりで展示している浮世絵について、院内にもバックナンバーを含めた解説を置いております。とはいえ、あらかじめ解説を読んだうえで、来院時にじっくりと鑑賞したいとの御意見も頂戴しましたので、展示作品については、当ブログにも解説を掲載しております。

 令和7年5月は、「東都駿台」です。

 本図は、神田川南岸の駿河台、現在の東京都千代田区神田からの景色です。画中、江戸の住民が行き交う神田川沿いの坂道と、大きな武家屋敷とが描かれており、富士はその武家屋敷の奥に小さく添えられています。新緑の季節でしょうか、三種の鮮やかな緑で表現された周囲に繁る木々や野に生えた草などが、眼下に見える神田川の青とも調和しています。荷を担ぐ行商人、巡礼者、お供を連れた武家の主従、額に手をかざす者、扇で風を入れる者など、さまざまな人物も描かれており、往時の活気が偲ばれるとともに、新緑の時期の暑さも感じられます。

 ここからの景色は、天保5年(1834年)に刊行された斎藤月岑の『江戸名所図会』でも、「昔は神田の台と云。此所より富士峯を望むに、掌上を視るが如し。故に此名ありといえり。」と紹介されています。神田界隈ではここだけが高台になっていたこともあり、歌川広重による『不二三十六景』の中にも「東都駿河町」の作品があるなど、江戸時代には有名な富士名所でした。

 現在も、この坂道は近傍の神田小川町に富士見坂という名で残っています。とはいえ、周囲に高層建築が林立し、坂道自体も両側を商店街に挟まれているため、現在ではここから富士を望むことはできません。 

 構図は、揃中の「礫川雪ノ且」(こいしかわゆきのあした)と同様に、左上から右下へと向かう対角線が強く意識されたものです。これによって、高台からの眺望であることが直感的に理解できます。

 なお、本図にも描かれている神田川は、東京都を流れる一級河川です。東京都三鷹市井の頭恩賜公園内にある井の頭池を水源として東に流れ、現在は、台東区、中央区と墨田区の境界にある両国橋脇で隅田川に合流しています。流路延長24.6 km、流域面積105.0 km2と、東京都内における中小河川としては最大規模で、都心を流れているにも拘らず、全区間にわたって開渠である点が特徴です。

 株式会社「東京湾クルージング」が提供されている、日本橋川、神田川、隅田川を周遊する「神田川クルーズ」というサービスがあります。下図は同社の案内図に富士見坂の位置を追記したものですが、各川によって囲まれる神田・日本橋地区の地理がよくわかるかと思います。

 お楽しみいただければ幸いです。

 それでは、また!

渋谷神泉こころのクリニック
精神科・心療内科
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