• 2024年9月13日

反復強迫について

 渋谷神泉こころのクリニックです。

 本日、2024年9月13日(金)の朝日新聞で、幼少期に受けた父からの性暴力を背景に、成人後も性被害に遭いやすくなった女性の例が紹介されていました。

 性被害に関する啓発や相談先の紹介が主なテーマで、記事内では「複雑性PTSD」の診断名や、強いストレスにさらされた際に記憶をとばす「解離」という言葉も使用されています。言葉がなければ問題として認識したり、共有したりすることが困難ですので、こうした用語や概念の理解が広まることは、とても有意義なことだと思います。

 ここで「反復強迫」という言葉も知っておくと、この記事への理解が深まると思います。反復強迫とは、本人の気づかないうちに苦痛な体験や、不安定な人間関係を繰り返し再現してしまう現象で、ジークムント・フロイトによる精神分析の概念の一つです。反復強迫には、似たような状況や体験を再現(行動化)することで、過去の辛い体験を思い出すことを避けるという無意識的な機能があるのではないかと考えられています。

 幼少期の言語化以前の体験や苦痛のために抑圧された体験は無意識の領域にとどまりながらも、「エス(イド)」として行動選択に強い影響を与えます。この「エス(イド)」による衝動と、「超自我」による倫理的、道徳的な自己規制との間で、「自我(エゴ)」が実際の行動を調整している、というものがフロイトによる心のとらえ方の概要です。

 この理論は、「アカギ―闇に降り立った天才」の赤木しげる氏も認識していたようであり、作中、(ある人間の傾向を理解し、行動を予測するに際して)「『潜在意識』や『イド』とすりあうようにある、人間の最も原始的な思考の流れを、見定めなきゃいけない……。」と解説する場面があります。意識的、自発的に選択した行為であっても、そこに本人の自覚していない無意識的な傾向や影響があるということですね。

 今回の記事の女性も、自分自身でもよくわからないまま、繁華街で泥酔しては(おそらくは行きずりの)男性から性被害に遭うということを繰り返しており、これが幼少期に受けた父からの性暴力に起因する反復強迫であった可能性があります。

 なぜかわからないけれども、問題に発展するような行動を繰り返す場合、その是非を論じるよりも、理由を考えてみることが有効であり、「反復強迫」の概念もその一助になるのではないかと思います。

 それでは、また!

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