- 2024年8月9日
パリ五輪に関する雑感④
渋谷神泉こころのクリニックです。
2024年8月6日(現地時間)、レスリング女子50 kg級で、須崎優衣選手がインドのビネシュ・ビネシュ選手に敗れました。
須崎選手は、東京五輪を全試合失点なしのテクニカルフォール勝ちで制して、金メダルに輝いたことを筆頭に、海外選手との通算対戦成績が94勝0敗、国際大会には24回出場してすべて優勝しているほどの絶対王者です。
五輪四連覇も目標に掲げていた須崎選手ですが、今回の敗戦では、敗者復活戦の前に以下のようにコメントしています。
「(1回戦の敗戦で)パリオリンピックの金メダル、オリンピック4連覇を達成という2つの夢が同時に消えてしまいました。だけど自分が思っている以上に、みんなは須崎優衣というひとりの人間を応援してくれていて、負けたにもかかわらず応援、励ましのメッセージを送ってくれた方々が多かった。それは身内もそうですし、世界中のレスリングファンの皆さんがそうしてくれました。」
「『オリンピックチャンピオンの須崎優衣でなかったら、もう価値がないのではないか』と思っていたのですが、ひとりの人間として応援してくださる方が多いことに気づけて『本当に私は幸せだな』と感じました。もう一度、4年後(ロサンゼルス大会)にオリンピックチャンピオンになって、皆さんと一緒に喜び合える日まで、また戦い続けたいなと思いました。」
須崎選手の真の強さは、その実力や実績よりもむしろ、自身の置かれた環境や状況の中で最善を尽くそうとする「在り方」そのものにあると感じました。
精神科の外来には、よく「条件付きの承認」の下で育ち、不安、憂鬱、自己嫌悪が遷延するようになった方がいらっしゃいますが、須崎選手のコメントはこうした方々にも勇気や気づきをもたらすものだと思います。
福本伸行先生の作品でも、このようなニュアンスの台詞がよく登場しますね。代表的なところでは、「銀と金」での平井銀二の以下の台詞です(3点リーダが多いため、適度に読点に置換しました。)。
「いえ、そのとおりです。わたしも周りにはそう言います。勝て……、と。勝つことでしか未来は開かれない。勝て……、そう言います。が……、しかし実はこの言い方は心的姿勢の話で、己や周りを奮い立たせる呪文のようなもの。本当の本当、本心ではそんなふうに私は考えていない。真に肝心なことは どのように闘い……、どのように勝ったか……?その過程が重要。平井が平井であったなら、それで構わぬのです。ですから、今回の競馬勝負、岡部さんが騎乗して下さるとしても「勝て」とは言いません……。岡部が岡部であって下されば、それで構わない……!」
「天-天和通りの快男児」の赤木しげるも同じようなことを述べています。
そういえば、五輪出場時の須崎選手、口唇ヘルペスが出ているようにみえます。減量や心理的重圧で疲労が蓄積していたのでしょう。
口唇ヘルペスは、過度の食事制限、睡眠不足、過労などで免疫力が低下した際に再発しやすく、私も時折悩まされています。同じお悩みをお抱えの方がいらっしゃいましたら、受診の際にでもお気軽に御相談ください。
それでは、また!